「自分の口に入るものは安心・安全なものであってほしい」
さまざまな食品添加物が使われている現在、 そう思う方も多いのではないでしょうか?
今回はチョコレートによく使われている添加物「乳化剤」についてご紹介します。
チョコレートのパッケージを後ろを見ると『乳化剤』または『レシチン』と書いてあることがあります。
パッと見ると、「これ、何?」と不安に思う方も多いでしょうが、大丈夫。
ちゃんと安全性が保障された食品添加物です。
この『乳化剤』や『レシチン』は、チョコレートを食べた時の『口どけ』に大きく影響します。
今回はそんな乳化剤について、ショコラティエの村田さんに教えていただきます。
村田さんはnel CRAFT CHOCOLATE TOKYOというチョコレートの専門店でチョコレート作りを行われている方。
乳化剤はどんなものなのか、
どんな働きをするのか、
チョコレートに入れるとどうなって、入れないとどうなるのか、
詳しく教えてもらいます。
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ごあいさつ
こんにちは。ショコラナビの福永です。
今日はどうぞよろしくお願いします。
こんにちは。
nel CRAFT CHOCOLATE TOKYOの村田です。
どうぞよろしくお願いします。
『乳化剤』『レシチン』って何?
早速ですが、『乳化剤』ってどんなものなのでしょう?
いかにも化学物質、という感じで、ちょっと心配になります。
そうですね。
心配になってしまう方もいらっしゃいますよね。
当店では、『レシチン』という名前の乳化剤を使っています。
もちろん自然由来のもので、食べても害のない、安心なものです。
大豆から作られている、油の一種です。
大豆から作られているんですね!
『○○剤』という名前から、化学的に合成したものをイメージしていたのですが、
食べ物から作られているなら安心できますね。
僕も体に悪いものは入れたくなくて、安全なものだけを使うように選別しています。
たとえば、最近とくに問題視されている『ショートニング』は、極力使いませんね。
でも、レシチンは自然にある食べ物から作られていて、国がきちんと安全性を確認しているので、問題なく使えます。
どんな見た目のものなんでしょう?
一般的には液状のタイプと粉末のタイプが売っています。
僕のところでは液状のタイプを使っていますが、はちみつのような、ねっとりした液体で、色は濃い茶色です。
なぜ乳化剤を入れる必要があるの?
なぜ乳化剤を入れる必要があるんですか?
乳化剤は、チョコレートの中に入っている砂糖や油を安定な状態にする働きがあります。
乳化剤を入れないと、チョコレートの表面にブルームができやすくなったり、口どけが悪くなったりするんです。
ブルームが起きたり、口どけが悪くなったりする…
なぜそんなことが起こるんですか?
本来、チョコレートはとても不安定な状態ものなのです。
そのため、ちょっとした温度や湿度の変化で『分離』という現象が起こります。
この『分離』が、ブルームや口どけが悪くなる原因です。
『分離』というと…何かと何かが分かれるんですか?
その通りです。
この場合、『カカオマス』と『油分』そして『砂糖』が、分かれてしまいます。
もしかして、よく混ぜたドレッシングを放っておくと、水と油に分かれてしまうようなものですか?
そうですね!かなり近いです。
チョコレートの成分を顕微鏡で見てみると、『カカオマスの粒』と『油の粒』と『砂糖の粒』が点々点々…と、点在している状態に見えます。
つまり、チョコレートって、一見混ざっているように見えて、完璧には混ざっていない、『粒の寄せ集め』になっているんです。
そうなんですか!
食べてみても粒々なんて感じませんが…
それは、粒々のサイズがとても小さいから感じられないだけなんです。
粒のサイズが20μm以下だと、人間の舌では粒々を感じられなくなります。
この、粒々同士をつなぎとめる効果があるのが『乳化剤』です。
粒々同士をつなぎとめるというと…カカオマスの粒とカカオマスの粒をつなぐんですか?
あぁ、逆です、逆。
『カカオマスの粒と油』『砂糖の粒と油』をつないでくれます。
カカオマス同士、砂糖同士、というのは、ほっといてもくっつきやすいんです。
ちょうど、ドレッシングが水と油に分かれやすいのと同じですね。
水は水と、油は油とくっつきやすいので、ドレッシングは水と油に分かれます。
同じように、チョコレートも放っておいたら、カカオマス同士、砂糖同士でくっつきやすいんです。
そこを、乳化剤が『カカオマスと油』『砂糖と油』をつなげてくれることで、カカオマスの粒や砂糖の粒が油の中に点在する状態ができます。
『乳化剤はカカオマスの粒と砂糖の粒を油につなぐ効果がある』ということですか…
つないでいないとどうなってしまうんですか?
つないでいないと、カカオマスと油分が分かれてしまって、カカオマス同士、油同士、砂糖同士で塊を作ってしまいます。
すると、塊の大きさが20μmを超えて、つぶつぶ、ざらざらした舌触りになったり、
口の中で油だけが先に溶けて、砂糖の甘さやカカオマスの味が感じられなかったり、
表面に油が浮いてきてブルームになったりします。
乳化剤が入っていないと、いろいろなトラブルが起こるんですね…
そうです。美味しいチョコレートを作るには、とても大切な材料です。
乳化剤を入れないでもチョコレートは作れるの?
あれ、でも乳化剤が入っていないチョコレートも売っていますよね?
こちらはどうして入れなくても大丈夫なんですか?
先ほどのトラブルは、乳化剤を入れないと必ず起こる、というわけではありません。
チョコレートの保管温度や湿度がどのくらいか、どのように変化するかによって、トラブルが起こったり起こらなかったりします。
あと、ショコラティエさんによっては、『エージング』という処理をすれば乳化剤を入れなくても大丈夫だよ!と言っている方もいらっしゃいますね。
『エージング』?
18℃で1カ月くらい熟成する工程です。
こうするとチョコレートの油が落ち着いて、乳化剤を入れなくても大丈夫だよ、とおっしゃる方もいらっしゃいますね。
おお、ではそれをやれば…
う~ん…正直、なんともいえないですね。
ショコラティエさんによって、見解が分かれるところです。
エージングをしっかりしたチョコレートで、常に冷蔵庫などの一定の温度や湿度で保管して、持ち歩きもしない、となれば大丈夫だと思いますが、
日本は季節によって温度や湿度ががらりと変わりますし、お店から家まで持ち歩く時間もあります。
そうなると、エージングをしていてもトラブルが起こる可能性があります。
そうなんですか…チョコレートってデリケートなんですね…
はい。
僕のお店では、お客様に最もいい状態のチョコレートを食べていただきたいと考えています。
しかし、お客様が当店でチョコレートを購入されてから、お持ち帰りになるまで、
もしくはお客様が誰かにお渡しになったら、受け取られた方が持ち帰るまで、
温度をきちんと管理するのは難しいです。
せっかくのチョコレートなのだから、食べる方にはがっかりしていただきたくありません。
そのため、僕のお店では乳化剤を使っています。
乳化剤で味や風味に影響はあるの?
乳化剤を入れたらチョコレートの味も変わってしまいますか?
いや、そんなことはないですね。
レシチンはもともと土や木のような…何とも言えない匂いがありますが、
いろいろ試してみましたが、0.5%くらいまでなら入れても味は変わらないです。
0.5%というと、チョコレート100gあたり、0.5g。
けっこうたくさん入れても変わらないんですね。
ポカリスウェットに入っている塩の量は100gあたり0.12gだそうなんですが、
それより多く入れても味が変わらないんですね。
ポカリスエットの塩の量ははじめて知りました(笑)
レシチンには粉末の物と液状のものがあるのですが、両方試してみたところ、
液状のレシチンの方が香りの影響が少なく感じられたので、当店では液状のレシチンを使っています。
実際は0.5%よりももっと少ない量しか使っていないので、味の変化はありません。
でも、食感は少し変化しますよ。
食感に変化が。
どんな風に変化しますか?
乳化剤を入れると、ねっとりとした、滑らかなくちどけになりますね。
乳化剤を入れていないチョコレートは、ホロホロっとしたくちどけになります。
むむっ…
私、乳化剤の入っていないチョコレートも入っているチョコレートも食べたことがありますが、そんなに違いを感じたことがありません…
私の舌が悪いのでしょうか?(汗)
ははは。
食感については、先ほどの『カカオマス』や『砂糖』の『粒』の大きさとか、油の量とか、いろいろなものが影響してくるので、
はっきりと違いが感じられないこともあると思います。
とはいえ、一般的に売っているチョコレートはみんな乳化剤が入っているので、
乳化剤の入っているチョコレートの食感の方が、馴染みがあって食べやすい人の方が多いですね。
そこも、僕のお店で乳化剤を入れている理由です。
皆さんが思っているチョコレートのイメージから外れることなく、美味しいものをお届けしたいので、滑らかな口どけにはこだわっています。
なるほど。
乳化剤を入れることで、くちどけが滑らかになるし、
チョコレートの分離によるトラブルを防げる、ということですね!
そうですね。
Bean to Barメーカーさんの中には、『カカオそのまま』を大切にされている方も多いです。
そういう方にとっては、乳化剤は入れない方が、カカオそのままの食感を楽しめるのでいいんですね。
僕は『チョコレートとして美味しいものを』ということを大切にしているので、
滑らかなくちどけで、トラブルなく、お客様に楽しんでいただくために、乳化剤を使用しています。
このように、『チョコレートの中に何が入っているか?』は、そのブランドさん、作り手さんの考え方を映す鏡でもあるんです。
「このブランドさんはどういう考え方を持っているのかな?」という目で、原材料をチェックしてみると、作り手さんのポリシーが見えてくるので、楽しいですよ。
ありがとうございました!